災害時に子どもを守るために──保育園のBCP(事業継続計画)作成ガイド
保育園は非常時や緊急事態宣言などの制限下であっても継続的なサービスの提供が求められることから、業務継続計画を策定するにあたって配慮すべき事項となります。
目 次
- 1. そもそも「BCP」とは?保育園に必要な理由
- 1-1. BCP(事業継続計画)とは
- 1-2. 保育園におけるBCPの重要性
- 1-3. BCPが未整備だと起こりうるリスク
- 2. 保育園向けBCPの基本構成とは?
- 2-1. BCPに盛り込むべき5つの基本要素
- 2-2. 災害種別ごとのリスク想定
- 2-3. 保育園に求められる「初動対応」の例
- 3. BCP作成のステップとポイント
- 3-1. STEP1|自園のリスク洗い出し
- 3-2. STEP2|対応体制と役割分担の整理
- 3-3. STEP3|代替手段と外部連携を決めておく
- 3-4. STEP4|計画の定期的な見直しと訓練
- 4. BCP整備で活用できる外部リソースとガイドライン
- 4-1. 委託事業者に任せるメリットと注意点
- 4-2. ICTを活用したBCP強化策
- 5. まとめ|BCPは“保育の品質”を守るための礎
- 6. 保育園運営の専門家に無料で相談
そもそも「BCP」とは?保育園に必要な理由
BCP(事業継続計画)とは
保育園などの児童福祉施設において、自然災害や感染症などの緊急事態が発生した場合でも、子どもの安全確保と保育サービスの継続を目的とした計画です。
保育園でのBCP策定が努力義務化された背景として、近年の自然災害の頻発や、新型コロナウイルス感染症の流行など、保育園を取り巻く環境は変化してる中で、緊急時における対応力を高める必要性が高まり、2023年4月より、保育園を含む児童福祉施設でBCPの策定が努力義務化されました。
保育園におけるBCPの重要性
BCPの主な目的は、以下の3つに集約されます。
・子どもと保育者の安全確保:事業者には安全配慮義務が課せられており、預かっている子どもたちや保育者の安全を確保することが求められます。
・重要業務の継続:サービス提供における重要(優先)業務を選定しておくことで、緊急時の限られたリソースの中でも重要業務を維持していきます。
・早期復旧:いつまでに、どのレベルまで業務を復旧させていくのか、そのための取組みなどを明確にしておくことで、早期の復旧に向けていち早く行動することが可能です。
保育所が災害等で機能停止してしまうと、園児の安全が脅かされるだけでなく、保護者が仕事を休まざるを得なくなり、社会活動や経済活動への影響が大きく、子どもたちの命を守り、保護者の社会活動を支えるためにも、保育所の事業継続は必要不可欠です。
BCPが整備されていないと上記の目的が対応できず、保護者から保育園への期待の低下、信頼関係の低下にもつながっていきます。
平常時から園の備えや対応方針を保護者と共有しておくことで、緊急時にも落ち着いて行動することができます。
保護者と情報を共有することは、単に説明責任を果たすだけでなく、安心感と信頼の構築につながる重要な取り組みです。
BCPが未整備だと起こりうるリスク
保育施設のBCPは努力義務化されており、それに伴う罰則はありませんが、策定しない場合には次のようなリスクが生じる可能性があります。
(1)園児の安全が脅かされるリスク
BCPが策定されていないと災害時に適切な対応ができず、園児が負傷したり、最悪の場合には死亡につながる可能性があります。
(2)保育士の安全配慮義務違反
BCPを策定せず、災害時の対応を怠ったために園児が被災した場合、保育士の安全配慮義務違反が問われる可能性があります。実際に東日本大震災では、安全配慮義務違反が認定された裁判例もありました。
(3)保育所の信頼低下
災害後の保育再開が大幅に遅れたり、適切な対応ができなかったりすると、保護者や地域からの信頼が失墜し、ゆくゆくは園児数の減少につながる恐れもあります。
これらのリスクは、保育所の存続にも関わる重大な問題です。BCPの策定は施設の責務であり、園児と保育士の安全、保育施設の信頼を守るために不可欠な取り組みといえます。
保育園向けBCPの基本構成とは?
BCPに盛り込むべき5つの基本要素
保育施設でBCPを策定に伴い、盛り込むべきは5つあります。
(1) 重要業務の特定:園児・職員の安全確認・安否確認、保育の継続、職員確保・役割分担、備蓄品の確保等があげられます。
(2) 非常時の体制:誰がどのような判断をどのようにおこなうかを事前に定めます。
例えば、園長、主任、担任など、役割と責任範囲を明確にします。
(3) 職員・園児の安否確認方法:電話連絡網、SMS、メール、SNSなど、複数の手段を用い、園児・保護者、職員の安否確認を行います。
(4) 代替保育の手段:職員確保ができない場合や災害や事故で園舎が使用できなくなった場合に備え、分園での保育、合同保育、一時預かりなど、代替保育の手段を事前に検討し、準備しておきます。
(5) 復旧までの対応フロー:災害発生から保育園が通常の状態に戻るまでの具体的な手順をフロー形式で示します。
復旧作業の優先順位、関係機関との連携なども含めて検討します。
災害種別ごとのリスク想定
災害種別ごとのリスクとして、以下のようなものが挙げられます。
(1)感染症:主として、人への健康被害が多く、全世界的に感染症が拡がります。
(2)地震:施設設備等、電気・ガス・水道などのライフラインへの被害が多くなり、ライフラインが復旧するまでは用意した物品等で業務を継続する必要があります。
優先度の高い業務から回復を図り、子どもの生命・安全を守るための事業の継続が求められます。
(3)風水害:主として施設設備等への被害が多くなり、浸水被害などの被害を被った場合は、施設内での業務の継続が困難になることがあります。
風水害については事前に気象庁や自治体から情報を入手することができるため、業務継続の代替の場所の確保が可能な場合があり、優先度の高い業務から回復を図り、利用する子どもの生命・安全を守るため事業の継続が求められます。
保育園に求められる「初動対応」の例
自然災害などの緊急時には、全ての業務を通常どおり行うことは困難です。
発災直後・初動段階・応急段階など災害のフェーズごとに求められる対応を整理しておくと良いです。
例えば初動段階においては、子どもや保護者の安否確認や建物等の被災状況の確認などの「情報収集」を実施し、状況に応じて、園舎からの避難、近隣の安全な場所への避難誘導を実施します。あらかじめ、様々な状況を想定して、避難場所の指定、定期的に避難訓練や安否確認訓練を行い、職員全体の対応能力を高めます。
災害時に帰宅困難になる子どもや保育士へ向けて水や食料を備蓄する必要があります。
園児・職員全員分の水・食料を最低3日分(可能なら5日分程度)常備しておきましょう。
・避難用具
・食料・水
・簡易トイレ
・乳幼児向けアイテム
・衛生用品
・医薬品
・ポータブル電源などの非常用電源
・乳幼児の健康維持に欠かせないミルクやおやつ
BCP作成のステップとポイント
STEP1|自園のリスク洗い出し
自園のリスクの洗い出しとして、以下のような内容があります。
・地域リスク:保育園周辺のハザードマップを入手したり、過去の災害事例を調査したり、地域の情報を収集しましょう。
・建物構造や設備のリスク:停電、断水、給食の停止、設備の故障、建物や設備の老朽化など、物的・環境的な要因によるリスクも想定しましょう。
・人的リソースの確認:緊急時における子どもの安全確保と保育サービス継続のために不可欠ですので、職員の役割分担、人員配置、スキル、連絡体制などを明確にし、緊急時でも冷静に対応でき、被害を最小限に抑えることができるように想定しましょう。
STEP2|対応体制と役割分担の整理
園児の安全確保を最優先に、従業員一人ひとりの役割を明確にすることが重要です。
具体例として
・指揮担当(園長/副園長)
・保育担当(保育士)
・引き渡し担当(保育士/事務職員)
・保護者対応担当(保育士/事務職員)
といったものがあります。
当日の出勤状況や災害状況により、その場にいる職員は異なることもありますでの、連絡系統や意思決定者なども複数のパターンを設定し、フロー化(文書化)しておくとよいでしょう。
STEP3|代替手段と外部連携を決めておく
保育サービスの継続をするためにも、近隣園との協力体制を構築することで、人的・物的資源を共有し、より迅速かつ効果的な対応が可能になります。
保護者との連絡手段としては、複数の手段を確保しておくことが重要です。
具体的には、電話、メール、LINE等のメッセージアプリ、緊急連絡網、保育支援システムなどが挙げられます。
災害時には通信手段が制限される可能性があるため、複数の手段を組み合わせ、状況に応じて使い分けることが望ましいです。
STEP4|計画の定期的な見直しと訓練
BCPを作成しただけでは、実際に災害が起こった際に想定していた通りの行動ができるとは限りません。
年1回以上の訓練が義務付けられており、安全性を高めるためには年間計画に基づき、避難訓練、引き渡し訓練、通信訓練など、さまざまな訓練を実施し、訓練の結果を踏まえ、BCPの内容を点検・評価し、必要な見直しを行います。また、職員の入れ替わりや施設の変更などに応じて、BCPを適宜更新していくことも大切です。
そして、訓練を通して、園児にも緊急時の動きを理解しておいてもらうもの重要となります。
BCP整備で活用できる外部リソースとガイドライン
委託事業者に任せるメリットと注意点
BCPは災害や感染症などの緊急時においても、保育サービスの提供を継続するための計画ですので、保育運営委託会社を選ぶ際には、BCP策定実績のある運営会社なのか、BCPの内容も適正なのかを確認することが重要です。
ICTを活用したBCP強化策
保育園におけるICTを活用したBCP(事業継続計画)強化策としては、園児の登降園や職員の出勤管理等の情報共有の迅速化、業務効率化、保護者との連携強化、そして非常時の電源確保などが挙げられます。
ICTシステム導入により、保育士間の情報共有がリアルタイムで可能になり、災害時の園児の安否確認や緊急時の連絡網として、保護者との連絡もスムーズになります。
まとめ|BCPは"保育の品質"を守るための礎
BCPを策定により、災害時に園児と職員が適切な行動、園児の安全確保への取り組みから保護者や地域からの信頼を得ることができ、保育施設の評判を高め、園児数の維持や増加につながることもあります。
保育園でしっかりしたBCPの整備が行われていることで、自社の社員の未就労などのリスクも軽減し、業務継続・復旧の早期化につながり、最終的には企業の存続に繋がる大切なものですので、自園での計画、訓練等を把握することが大切です。
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